救済詩 『 リビングチェアに座って 』 by KAINEL

リビングチェアに座って

ぼんやりとした明かりの下
僕はリビングチェアに座っていた
両肘をテーブルについて
憂鬱な想いに心を巡らせて

朝がやってくる
父の声、忙しそうにパンを食べて
『行ってきます!』とドアを開けて出ていった

午後の日差しが強くなる
母の声、電話で話をしている相手の声に
楽しそうに笑っていた

午後十時
帰宅した僕の『ただいま』の声
奥の方でテレビの音が聞こえた
僕は靴を脱いで家に上がった

ああ、もうこんな時間か……

ぼんやりとした明かりの下
僕は家族を見ていた
時々言葉を交わしながら
父と母と
楽しいような、悲しいような、これで終わりのような

誰かが目の前で悩んでくれた
誰かが目の前で怒ってくれた
誰かが目の前で泣いてくれた
誰かが目の前で笑ってくれた
大切な誰かのために……

ぼんやりとした明かりの下
僕は僕を見ていた
リビングチェアに座っている僕を
両肘をついている僕を

朝がやってくる
父の声はもうしない
『行ってきます!』とドアを開ける音も聞こえない

午後の日差しが強くなる
母の声は風の音になって
やわらかい朱色の光にとけていった

午後十時
帰宅した僕の『ただいま』の声
奥の方でテレビの音が聞こえた
僕は靴を脱いで家に上がった

ああ、もうこんな時間か……

ぼんやりとした明かりの下
僕はリビングチェアに座っていた
時々言葉を交わしながら
憂鬱な想いに心を巡らせながら……