救済詩 『霧にまぎれて』 by KAINEL

霧にまぎれて

生暖かい空気に息をつまらせ
真夜中の霧雨にうたれていた

ここは……
記憶の奥底で何かが囁く
歌声のような、溜息のような、悲しい叫びのような……

澄んだ水晶の瞳に、満月の光がこぼれる
そこに映るのは妖艶ないきもの
水晶の湖に、古来から住んでいる聖なる紋章

湿った肌が体の熱を奪っていく
もう、ずいぶん彼方まで来てしまったような気がする
きりのない人生と、きりのない刹那に
あてもなく心踊らされている間に

夢の先に見える夢に恋焦がれていた
そうだ、それだけのことだった

瑠璃色の手鏡に、細い蝋燭の炎がゆれる
つかの間の永遠がしたたり落ちていく

森の奥から声が聞こえる
霧にまぎれてさまよう霊が、そっと寄り添って
堕ちていくのは悲劇か喜劇かと、僕に尋ねた……

僕は答えにつまって、手鏡を握り締めた
細い指に絡みつくうたかたの美貌が
にやっと笑っているような気がして
ぞっとして後ろを振り向いた