救済詩 『感情の天秤』 by KAINEL

感情の天秤

天秤が揺れている
右に、左に浮いたり、沈んだりして……
天秤にかけられているのは
感情のない水銀でできた心臓と、
理性の鎖に繋がれた不安定な感情だ

漆黒の闇に浮かんで光る
華麗に装飾された銀色の天秤
そこに刻まれているのは、
天上を夢見るキクロプスと、
堕落に焦がれる無邪気な人間の姿

白く長い指で弧をえがく
背の高い窓から青い霧が迷いこんで
うたた寝をしていた黒い獣をしめらせる
感情のない水銀でできた心臓から
一滴、二滴と雫が垂れ落ちる

不均衡な感情の天秤は
そっと触れただけでも、
そのバランスを崩してしまう
カチッと小さな音を残して……
くだけた感情の破片さえも、
粉々に壊してしまうほどに……

僕は青い霧を深く吸い込んだ
その霧はからだの奥でとけて
暗闇にかわり産声をあげ
鬱蒼とした深い森の木々の彼方へ
悲しい叫び声をあげた

天秤が揺れている
右に、左に浮いたり、沈んだりして……
乾いた唇で少し微笑んだ僕は、
今、その動きをじっと見ている