救済詩 『自画像』 by KAINEL

自画像

この白い家は亡霊が住んでいる。
打ちひしがれ泣く気力も失せた悲しい人の亡き骸、
その顔はよく見ると僕そっくりにみえた。
僕はぞっとして目をそらすと、この家を後にした。

少し歩いていくと、今度は黒い家が目に入った。
扉をたたくと鍵が自然にはずれ、家の中は静まりかえっていて、
悲しいすきま風が薄暗い室内を優雅に舞っていた。
僕は気が狂いそうになり、その陰気で憂鬱な家を後にした。

足早に夕暮れのさびしい並木通りを歩いていると、
今度は赤い家が目に入った。
僕は不吉な胸騒ぎを感じたので、そのまま通りすぎようとしたが、
自分のからだは気持ちとは逆に、赤い家に向いていた。

その家は壁も屋根も入り口のドアも、ぬれた血のような赤い色だった。
僕は高鳴る鼓動を抑えながら、赤い家に向かって歩きつづけた。
家の前に来ると、僕はためらわず玄関のドアを開け、そっと家の中に入った。

目に飛び込んできた光景は、僕の気持ちをさらに憂鬱にさせた。
テーブルも椅子も大きな柱時計も階段も天井のシャンデリアも、
みんな鼻をつくような生臭い血の色をしていた。
僕はめまいを感じたので、目を閉じて大きく深呼吸をした。
そしてもう一度目を開いた。
すると目の前に信じられないものが立っていた!
真っ赤な血に染まった自分自身が、僕を怖い目でにらんでいた!
声にならない悲しみと驚き、体は氷のように硬くなり自由がきかない。
憎悪に満ちた怒りの目でにらみつけているその男は、
僕をドアの外に突き飛ばし、大きな音をたててその扉を閉めた。

呆然とドアの外で立ち尽くした僕の胸には……、
べったりと濡れた手の跡が、今にも動き出しそうな気配を残していた。
しばらく赤い家の前で座り込んでいると、景色はすっかり夜の闇にのみ込まれていた。
僕は震える足を無理に立たせて道を急ぐことにした。
澄みきった空に浮かんだ白い月が、ぼんやりした光で足元を照らしている。
夜の闇がゆらゆら揺れている。

しばらく歩くと、今度は半透明に輝く青い家が目に入ってきた。
この家は透明であり、外からでも中の様子がよく分かった。
僕はドアをノックしようとしたが、手はドアをすり抜けて冷たい感触が僕をお そった。
家の中には色のない透明な人影が行ったりきたり……。
すっかり落ち着きを取り戻した僕は、青い透明なベッドを見つけるとすぐ横になった。

そして長く深い眠りがどのくらい続いたろう。
いつになくまぶしい朝の太陽の光で、僕はやっと目を覚ました。
不思議なことに身の周りには何もなく、僕は広い草原で寝ていた。
僕は立ち上がりまた歩きはじめてはみたが、いったいどこへ向かって歩いているのだろう?
目の前に今度は黄色い家が見えてきた。
僕は少しうれしくなった。