救済詩『アダムとエバと神様の物語』by KAINEL

アダムとエバと神様の物語

ある夏の晴れた穏やかな日の午後、僕は木陰で聖書を読んでいた
すると、見知らぬ少年が隣に腰をおろして興味深そうに僕を眺めた

――君は神様を信じているのかい?
金色の髪をなびかせて少年が微笑んだ

今までそんなことを考えたこともなかった僕は、
なんて答えていいのか分からず、戸惑ったまま少年の瞳を見返した

――君は神様に愛されていると思うかい?
君たちと神様の本当の物語を知りたくはないかい?

聖母のような少年の眼差しは、どこまでも優しく優雅で、
その瞳の奥は謎めいて彼方に広がっていた

――アダムが神様に愛されていたのは真実だけど、
アダムとエバの楽園追放の本当の理由は違うのさ

すっかり少年に魅せられていた僕は、
それがどんな秘密なのか考えもせずに、
ただうなずいていた
そうすると少年は歌うように話しはじめた

――神様はアダムに少し退屈していたんだ
あまりに従順だったからね

――神様はアダムが知恵の樹の実を
いつか取って食べるだろうと
毎日楽しみにしていたのさ

――ところが教えに従順なアダムは
神様の言いつけ通り
樹の実を取ろうとはしなかったんだ

――それが面白くない神様は
アダムよりも欲望に正直なエバをつくりだしたんだ
そして、召使いの蛇にエバを誘惑させて
おいしそうな知恵の樹の実を食べさせたのさ

――しかして神様の思惑どおり
エバはずる賢い蛇に唆されるまま
その実を口にし、アダムにも食べさせてしまったのさ

――以前からアダムを楽園から追放したいと考えていた神様は、
それはもう喜んで、すぐに召使いの天使に銘じて、
アダムとエバを楽園から追放したのさ

――そのあと、その楽園はどうなったか分かるかい?
神様はこの悪戯が大変気に入ったらしく
今でもアダムとエバを繰り返しつくっては、
ふたりに罪を犯させて、楽園から追放しているんだよ

――そんな神様の気まぐれな悪戯のせいで
この世界は君たちアダムとエバで
溢れかえるようになってしまったというわけさ

――いったい本当の罪を犯しているのは、
神様なのか、それともアダムとエバなのか
どちらなんだろう

そう僕に話し終わると、
少年は立ち上がり、何処へともなく歩き去っていった