救済詩 『狼』 by KAINEL

そんなに優しくしないでください
そんなふうに優しくしないでください
お願いです、お願いです
凶暴でこんな恐ろしい姿をした獣に
優しく微笑まないでください
慈悲の言葉をかけないでください

あなたは分かっていないんです
今まで私がどれほどひどいことをしてきたかを
どれほど、このからだを真っ赤な血で染めてきたかを
この鋭い牙で、獲物の肉を引き裂いてきたかを

分かって欲しいとは思いません
生きるためにはしかたがなかった
生きるためにはそうするよりなかった
たったそれだけのことです

用心深く獲物の背後に忍びより
次の瞬間、全速力で襲い掛かり
必死で逃げ惑う一番か弱い動物の喉に
飢えた牙を突き立てるしか術がないのです

あなたには想像できないでしょう?
薄暗い森を何日も歩き続ける憂鬱を
目が霞むほどの空腹で見上げる太陽を
凍るほど冷たい地面をさ迷い歩く孤独を
その姿を白く照らす月の光を……

優しいあなたの瞳に映る、牢獄のようなこの世界
彼方まで続いていく時のただ中で
私がここにいる意味なんてあるのでしょうか
天上の光届かない深い森の奥で
冷たい土に帰るこの身体に意味なんてあるのでしょうか
ああ、本当に……

でも、時々……私はこう思うときもあるのです
私はあなたよりも恵まれているのではないかと
それ以上に幸福なのではないかと
なぜなら、あなたが犯す罪を私は犯さないからです
いや、犯せないといったほうがいいでしょうか

私は野蛮で獰猛な獣だけど
からだを真っ赤な血で染めているけれど
なおこのからだは美しく、精神は厳かに光り輝いて
地上の生きとし生けるもの全てを受け入れて
慈悲深くそれを照らしているような気持ちがするのです