救済詩 『真面目な悪魔と薄情な天使』 by KAINEL

真面目な悪魔と薄情な天使

ある晴れた日の午後、浮かない顔をした悪魔が、翼をはためかせ陽気に歌う天使に出会った。

悪魔「君は楽天家だね。どうしたら、そんなふうになれるのかな?」
天使「あはは、それは君が真面目すぎるからだよ」

悪魔「だって、この世の中を見てごらんよ、気が滅入ることばかりじゃないか」
天使「だから君は真面目すぎるんだよ。いいじゃないか、そんなこと放っておけば。それが一番さ」

悪魔「僕は君が羨ましいよ。ここでは薄情な君が愛の使者とか、神の使いとか言われてるんだから」
天使「それは、ここにいる人間が勝手に思っているだけさ。僕達天使は、誰に対しても、神や創造主に対しても自由な存在なんだから」

悪魔「そんなものかなあ、いったい君は誰かのために悩んだことあるのかい?」
天使「悩む? 誰のために? 何のために?」

悪魔「ああ、君と話してるとなんだか悲しくなるな」
天使「僕のほうこそ、君と話してるとなんだか情けなくなるよ。君は人間に同情しすぎるのさ。知っているだろう、人間の狡猾さ野蛮さ残酷さに、神でさえも呆れ果てていることを!」

悪魔「知ってるさ、そんなことくらい。だけどね、人間には愛や知恵や勇気もあるんだよ」
天使「そんなの僕の言ったことに比べれば、ないのと一緒さ!」

悪魔「君は天使の姿をしてるけど、実際、悪魔だよ。僕のほうがよほど天使にふさわしい」
天使「たぶん、そうだろうね。運命の皮肉というやつさ」

悪魔「それじゃ、僕はもういくよ。手に入れた魂をサタン様に届けにいかなくちゃだから」
天使「じゃあ、僕は退屈しのぎに愛の矢でも放ってこようかな」

悪魔「それじゃ、さよなら、薄情な天使さん」
天使「それじゃ、さよなら、真面目な悪魔さん」

浮かない顔の悪魔と陽気な天使は、またそれぞれ思い々々の方向に翼を広げて飛び去っていった。