救済詩 『煉獄』 by KAINEL

煉獄

目が覚めるような青空の下で
僕は目覚める
軽やかに羽ばたく蝶達に鼻をくすぐられて
芳しい花の香りに頬をなでられて

きれいな花が咲いた小高い丘で
僕は深呼吸をする
透きとおった空気が、からだの中を駆け巡る
夢の匂いが心にしみこんでいく

ああ、なんて気持ちがいいんだろう
そして、なんて美しいんだろう
この世界は……

深く沈んだ瞳に映る
水面のきらめき
淡い色の花びらがひとつ、ふたつと
静かに寄り添って揺れている

まとない別離
またとない再会……

無言の美しい風景
悲しい出来事を内にひめて
僕は目を閉じたまま
手のひらに太陽の光を感じた

深く沈んだ瞳に映る
この世界の向こう側
虹色の蜘蛛がひとあし、ふたあしと
巣にかかった獲物に近づいて

晴れていた空にどんよりした雲がかさなる
天上からふりそそぐ光が消えていく
精霊の歌声も、聖なる母の微笑みも、厳かな父の慈悲も
渦巻く灰色の雲に引き寄せられて、音もなくのみこまれていく

ああ、なんて憂鬱な気持ちだろう
そして、なんて悲しいんだろう
この世界は……

僕は軽いめまいを感じて目を閉じ
祈りの言葉を口にしてみた、そう、何度となく
遠のく意識を感じながら、無言でつぶやいた

屍がうず高く積まれた小高い丘で
僕は目覚める
その人たちはうつろな目を開いたまま
遥か遠くを見ているようだった

渦巻く雲が空を覆っていく
なにかが起きる予感
悲しい世界から生まれた魔物が黒い翼を広げ
ものほしそうに屍を狙っている

救いのない灰色の空の下
やがて、また晴れる空を思いながら
僕は天国と煉獄の間を
行ったり来たりしているだけなのかもしれない