救済詩 『時の門番』 by KAINEL

時の門番

高くそびえ立つ巨大な門に
午後の太陽が影をつくりはじめると
時の門番が、大きなあくびをした

浮かない顔をした僕は
退屈そうな門番を横目で見ながら
心の底で憂鬱な気持ちを感じていた
再びここに来てしまった自分を恥じた

風もない、音もない、真空地帯のようなこの場所
僕はここで生まれて、ここを旅立って
あてもなく世界を彷徨って
こうして、またここに帰ってきただけだった

門番は時々鼻歌を歌い、ご機嫌の様子で
僕を道化師まがいの面白い見世物とでも思っているのか
度々僕に話しかけてきた

どうだい、外の様子は? 相変わらずかい?
人生は楽しかったかい?

とたんに僕は答えに詰まった
そして何も言えなくなってしまった

黙っていちゃ、分からねえやな!
まあ、その顔をみる限り、あんまりいい事はなかったみてえだな、はっはっ!
門番は声高に笑うと、興味深そうに僕の顔を眺めた

――人生は楽しかったかい……
僕はその言葉を口にしてみた、と同時に体中から記憶が溢れ出してきた
次から、次へと、とめどなく、あてもなく、大きなうねりとなって……

さあ時間だ、そろそろ門を閉めるが、お前はどうする?
まだ、しばらくここに残るか、それとも門の中にはいるか
さっさと決めてくれ!

僕はここに残る理由もあまりなかったので、門をくぐることを決めた
痩せた体を引きずって、のろのろと一歩々々進んでいく
すると、意外にも心が軽くなっていくのが分かった
素足で感じる砂の感触が気持ちいい

巨大な門が目の前に迫る、口うるさい門番はもういなかった
そして、中に入ったとたん、僕は光の粒になって消えてしまった