『K』
西日の影が長く伸びている
遠く物静かな、なぜか懐かしい思い
そして、悲しくもなく、うれしくもない
寂しく憂鬱な気持ち
血を溶かしたような赤色の太陽
その光に照らされて
僕はここで立ち尽くしている
あてもなく、こうして……
――、僕が生きているこの世界は、なんなのだろう?
――、この世界とは、なんなのだろうか
――、こんな簡単な事も時々分からなくなる
――、こんなに大切な事も時々分からなくなる
地面に夜のしじまが染みこんでいく
教会の鐘の音が耳にこだまして
また、僕はこの世界がいやになってしまう
――行くあてはあるのか?――
消えそうな影みたいな男が、渇いた声で問いかけてきた
僕は答えにつまって、こう言った
あるのかもしれない、と……
影だけの男は、その答えに無表情な顔で少し笑った
つられて僕も少し笑った――
西日の影が長く伸びている
遠く物静かな、なぜか懐かしい風景
寂しく憂鬱な思い出
もう取りかえす術もない時と
これからやって来る必然と運命に戸惑っている