救済詩 『道化の契約』 by KAINEL

道化の契約

猥雑で、複雑で、混沌とした世界
解き放とう
自我を、意識を、縛りつけるもの全て

YHWH……………

宿命と本能と愛欲に
もだえて、窒息して、苦悩して、溺よう

あの時交わした契約の意味
そんなもの忘れてしまった
呪いの刻印を背中に焼き付けられて
身動きがとれない
背徳に舌を絡ませて
ただ、思い切り突かれているだけなんだ

甘い契約
こんなことになるなんて
安っぽいこの命じゃ
どうしようも出来ない
血の一滴にもなりやしない
やっと解かった気がする

あいつは最初から知っていたんだ
黒い髪と赤い目で
退屈な道化の芝居を
すぐ側で見ていたんだ
天使の羽でつくった靴を履いて
その心臓を食べながら
笑って見ていたんだ

救済詩 『背神』 by KAINEL

背神

血に飢えた白い薔薇に
真紅の血をそそいだ
花びらに
花弁に
一滴、一滴と……

のどを枯らした
白い薔薇はうっとりと
そそがれる血にまみれて
無邪気な微笑みで
うまそうに舌を絡ませた

錆びついた十字架
私だけに罪を押しつけて
去っていった救世主
背中に刻んだ罪の刻印が
またうずきはじめている

烏が
泣き叫ぶ天使達が
獲物を食い千切る魔物が
幾重にもうごめいて
声をあげた

祝福されることのない
神々の双生児
口にくわえた生贄の血が白い花びらを濡らす
一滴、また一滴と……
したたり落ちる血はすぐに
黒い血に変わってしまった

救済詩 『秒針』 by KAINEL

秒針

やわらかい悲鳴
したたり落ちる血
荒い息使い
頬をつたう涙
震える身体
祈り

鳥のさえずり
車が通り過ぎる音
誰かの足音
こみあげる嗚咽
光る凶器

立ち尽くす女
倒れて動かない男
床に広がる血液
風に揺れるカーテン
時を刻む秒針

憎しみ
果てしない悔恨
絶望と希望
かすかな光
深い闇

救済詩 『金貨』 by KAINEL

金貨

金貨を一枚ください
金貨を二枚ください
あなたの持っている金貨を全部
わたしに下さい

ないのならあなたの苦悩を
あなたの絶望を
あなたの命を
あなたのすべてを
わたしにください

こんなことを言ってしまう
わたしはおかしいのでしょうか
わたしには乳のみ子がいます
気狂いの母親がいます
他人の振りをする姉妹がいます

不幸な人間です
泥棒です
娼婦です
だらしない人間です

だから金貨を一枚ください
金貨を二枚ください
あなたの持っている金貨を全部
わたしに下さい

救済詩 『救済詩』 by KAINEL

救済詩

あなたとも、
これでお別れですね
振り返ってみると
生まれてから死ぬまで
一瞬のようでもあり、
千年のように長い月日のようにも感じられます

今、ここを去る前に
あなたに何か話そうと考えたけど
あまり思いつきません
たぶん、何も言いたくないのかもしれません

あなたが私に与えてくれたものは
あまりにも多すぎたので……
苦悩とか、憎悪とか、殺しとか、嫉妬とか、怠惰とか、地獄とか、
幸せとか、悩みとか、痛みとか、愛とか、欲望とか、犠牲とか、
不満とか、暴力とか、芸術とか、愛されない苦悩とか、科学とか、
宗教とか、争いとか、無視とか、軽蔑とか、犯罪とか、牢獄とか、
無力とか、平和とか、親とか、家族とか、子供とか、愛しい人とか……

みんな、灰になって消えていきます
みんな、空に散っていきます

あなたの救いも教えも戒律も手の届かない
意味を持たない世界へ
わたしは一人で旅立ちます

私は炎に焼かれ灰になり
ひょっとするとあなたより
崇高な存在になれるかもしれません

お別れですね
どきどきするのです
本当にどきどきするのです
けれど、私は一体どこへ行くのでしょう?
ただ消えてなくなるだけなのでしょうか

最後に、救いでもなく、祈りでもなく、
あなたに思惟してほしいのです
一つの命が消える時に祝福を!
一つの命が散るときに祝福をと!